13.「不勉強にして、その質問の答えは分からないが、その分野で最高の人物となら、5分で連絡が取れる」(ヘンリー・フォード)

皆さんは、フォードという会社を知っていますか?内燃機関を初めて自動車エンジンとして実用化したのは、現在は高級車にその名を残すドイツのエンジニア、カール・ベンツですが、大衆車を作り出したのがヘンリー・フォードです。

アメリカの代表的起業家(大金持ち)は、フォードを始め、ビル・ゲイツ、マイケル・デル、ウォーレン・バフェット、トーマス・エジソン、アンドリュー・カーネギー、ジョン・ポンピアード・モルガン(J・P・モルガン)などがそうであるように、ほぼ全員が高等教育を受けていないか、大学を中退しています。しかしまた、彼ら大富豪ほど、後進の教育に多くの財産を寄付した人たちもいません。別に、実業界で成功するだけが人生ではありませんが、現在の世の中では「成功」の尺度に「経済力」が加えられるのは普通で、愛情や夢だけでは人はついてきません。

では、彼らは一体、何を「社会における成功」とし、何をもって、「成功するための力」としたのか?それは「他人とうまく付き合っていく力」です。

フォードは、機械好きのやんちゃ坊主でした。学校の成績は芳しくないものの、リーダーシップや好奇心は人一倍。特に、ここ一番の勝負には、大人も顔負けするほどの忍耐力、集中力があったそうです。彼が「T型」と呼ばれる大衆車を開発し、世界中にモータリゼーションを起こしたのはよく知られています。彼はこの成功により、アメリカ大統領の200倍の収入を毎月稼ぐようになりました。

いつの世も成功者を素直に認められず、難癖をつけたがる人はいるもので、ある日フォードの会社に、有名大学を卒業したエリート金融マンが訪れました。彼らは、フォードが高校もまともに卒業していないのを知っていたので、彼が答えられないのを分かっていて、国際金融や芸術、生物学など、深い教養を必要とする質問を投げつけてきました。

当然、そのような教育を受けていないフォードは、答えられません。

「分からないね」を連発するフォードに、エリートたちは嫌味な質問を続けます。答えられないフォードの表情を見て、彼らは優越感を楽しんだのでした。そしてフォードは、電話を背にして、一言だけ言いました。「不勉強にして、その質問の答えは分からないが、その分野でアメリカ最高の人物となら、5分で連絡が取れる」と。いくら彼らがエリートとは言え、アメリカ最高の人物の頭脳に敵うはずがありません。エリート君たちは急におとなしくなって、退散したそうです。

この話は、経営者の中ではよく知られています。「社長の仕事とは何か?」を示す話として、よく引き合いに出されるからです。この社会において、「たった一人の知識、経験、能力で解決できる問題は、ほとんどない」と言ってよいでしょう。

進学、就職、結婚、独立、転職、引越、財産、資産運用、子供の教育、病気、税金、退職、老後…人生のあらゆるステップは、「他人との相談」で満ちています。こういう、誰でも想像できる例からも分かる通り、世の中には「チーム(2人以上)で解決する問題」の方が多いものです。もちろん、世の中には自分一人で考え、決断し、責任を持たねばならない勝負もたくさんありますが、それとチームの課題とは別です。個人や組織が日々遭遇する「新たな課題」には、その数だけ相談相手や知識が求められるものです。

しかし、日本の教育では、「問題とは一人で解決するものだ」という前提が強力に埋め込まれ、全てが「記憶力を武器とした孤軍奮闘」で教えられます。日本人が「いいや、実力でやる」と言う場合、それはほとんど、「一人でやる」という意味で、「結集しうる限りの有効な力(知識・能力)」という意味ではありません。つまり、「他人の力は、実力ではない」とする教育ですが、一人の記憶で蓄積できるデータなど高が知れているし、経験や見識に裏付けられない記憶など、あってもほとんど意味がありません。

そして、このような教育を受けるほど、「人に質問するのが恥ずかしい」、「他人に頼るのが恥ずかしい」という心理が強化されていきます。「物覚えが悪い人間だ」と思われるのが怖いからです。

分からないのに手を挙げない、分かっているのに手を挙げない…という奇妙な光景が、教えたわけでもないのに日本各地で同時発生するのは、「質問の仕方」ではなく、「覚え方」ばかりを重視するためでしょう。子供に「問い方」を教えれば、その子は無限の知識が手に入るのに、問いは決められ、答えばかりを押し込まれるというのは、やはり異常な教育だと思います。以前のメルマガではありませんが、「知識」に関しても、やはり「魚」より「釣り方」が大事です。

例えば、英文和訳の試験があったとして、「辞書を使わない」のと、「辞書を使う」のでは、どちらがより効果的な実力が測れるでしょうか。僕は「どの辞書を選び、どう辞書を活用するか」も、能力の中に入ると思います。それは、「相談相手を選ぶセンス」が分かるからです。より、実社会で求められるのに近い解決手法が鍛えられるからです。世の中には「道具を使うテスト」や、「他人と協力しないと解けないテスト」などがあっても、面白いはずです。

人間のやることは、記憶以上に「連結」、「連想」にあるのであって、そうしてこそ、記憶も深まるはず。だから、フォードは事業や社会観察に関する「最高の頭脳」を揃え、自分は「良い問いを発すること」に徹したわけです。古来から、優れたリーダーは自分の限界を謙虚に弁え、人に仕事を任せたり褒めたりする能力を磨くものです(「藁のハンドル~ヘンリー・フォード自伝~」竹村健一・祥伝社)。

彼はまた、このようなユニークな名言も残しています。

「私には、6人の優れた部下がいる。what、why、when、who、where、howの6人に命令すれば、たちどころに最高の解決策が届く」。

疑問視を「部下」と見なすなんて、学校では絶対に教えてくれない発想法ですよね。つまり、「いざという時に動員できる他人の能力も、自分の能力のうちだ」ということです。
さて、皆さんは目下の就職活動を、「個人の記憶・知識」と、「チームによる知恵」のどちらで乗り越えようとしているでしょうか?ここで言う「知恵」とは、もちろんその場限りの借り物の知恵ではなく、決定を下すのに有効な根拠、というほどの意味です。そして、あなたの仕事は、「一人の頭で知識をひねり出すこと」ではなく、「得られる限りの最高の情報環境を作り、決定すること」です。 そして、素早く質の高い決断は、「最初に結果を決めている時」にだけ、行われます。

「○○なら、決定」
「○○があれば、こうしよう」

と先に結果を決めておいて、それから情報を集めるのが、賢明なやり方です。

それが…

「○○かぁ。どうしよう」
「○○を知ったら、やりたいことが見えてくるかもしれない」

と、情報を集めながら、その量的拡大や質的充実の向こうに「夢の顕在化」を期待していませんか?

しかし、夢とはジグソーパズルのようなもの。「ピースから全体を想像すること」はできません。「先に全体の絵を見たら、ピースの場所が分かる」のです。皆さんは日々、「情報」というピースを集めていることでしょう。では、頭の中に「完成図」は存在しているでしょうか?

完成図がないのにピースばかり集めながら、「まずは情報収集」とか言っていませんか?それは、「永遠に」と言い換えてもよい不毛のスパイラルに発展します。量も、位置も、意味も分からない「何とも結びつかない情報」など、たとえ自腹で行った東京の説明会で入手したものでも、何の役に立ちません。まず何より、「完成図を描くこと」が大事です。

情報収集ばかりやっていると、決めることを忘れて情報に依存し、いつしか「決まらない」などと言い出すもの。 決まるわけがありません。「決める」のですから。決めることを忘れた人は、情報を集めるほど決まらなくなります。自分の仕事を取り違え、「決める」がいつしか、「集める」になってしまわないよう、注意しましょう。フォードは、あらゆるビジョンの実現において、先に結果を決めていたリーダーでした。そして彼は、手に入れたピースを「これは何のピースなのか」と聞くことに集中したわけです。

皆さんも賢明なフォードに学び、先に未来を決めましょう。「決まる未来」は怖くても、「決める未来」は怖くありません。人間は、自律的かつ主体的に決定した目標には、不安を抱かないようにできているものです。

そして、友達や先輩、知人をあなたの「分身」として活用し、仲間の優れた知識や判断力をフルに動員しましょう。大事な時に一人なんて、それが何の実力と呼べるのでしょうか。それは、「人徳の欠如」以外に考えられません。自分の人生の大事な時期に、どれだけ多くの人が、あなたのために貴重な時間や知識、情報を提供してくれるか?これこそ、最高の「実力」ではないでしょうか。


 





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